情と非情は紙一重
情と非情は紙一重
公園で偶然子猫を見つけた。まだ小さくて可愛らしい、コロコロした子猫。
全部で3匹居て、どの子も灰色に黒の縞々柄だった。皆兄弟だ。
親猫は見当たらない。餌を獲りにいっているのか、それとも子を捨ててどこかに行ってしまったのか。
はふらふらと吸い寄せられるように子猫たちに近付いていく。
自称、可愛いものに目が無い女。可愛い動物を発見すれば、ノラだろうが飼われた子だろうが、速攻で撫でに行く。逃げられても追いかける。子猫たちは逃げなかった。母猫を求めて鳴いていた。
今すぐ抱きかかえて暖めてやって、それからコンビニで何か食べれそうなものを買ってきてあげたい。
指先が柔らかい毛先に触れる瞬間、後ろから肩を掴まれてグイと引き離される。
ああ、子猫が遠ざかっていく。
「さん、触っちゃいけません。」
「あ、虹一君。」
の肩を掴んで子猫たちから遠ざけたのは虹一だった。
まだの指先が子猫に届いていないのを見て、ホッと息を吐く。
「すいません、肩痛かったですか?」
「ううん、全然大丈夫。でもどうして触っちゃダメなの?」
「子猫に人間の匂いがついていると、親猫はもうその子猫を育てないんですよ。」
「え…。」
こんなに可愛いのに、こんなに温もりを求めているのに。
それなのに、親猫の何たる非情なこと。けれどもそれ以上に非情なのは、何も知らずに触ろうとしていたのほうだ。
この場で可愛がってやることは出来ても、家につれて帰ることは出来ない。最期まで面倒を見てやれない。
その場しのぎの愛情を注いでやって、子猫たちが本当の親から愛情を注いでもらえなくなるとしたら、それは大きな罪だ。
ふと、草の茂みがカサリと音をたてる。
反射的に顔を上げると、大きな猫がこちらを草の茂みからじっと伺っている。
「あ、親猫…。」
「さん、少し離れましょう。」
「うん。」
虹一の言う通りに、子猫たちから距離を置く。
たちが離れたことを確認した親猫は、のそりと茂みから顔を出して、子猫たちに駆け寄った。
親猫の出現に、子猫たちが喜びながらその胸に吸い付く。
「よかった、面倒見てあげてる…。」
「もう大丈夫だと思いますよ。さ、帰りましょう。」
「うん。」
差し出された手のひらは、夕日に染まって紅い。少し照れくさかったけど、やんわりと握り締められた虹一の手に引かれ、は公園を後にした。
情が非情に、非情が情になることを知った、ある暮れの出来事。