探し物の物語。
11
お転婆少女の正体は、良家の娘にしてハナダのジムリーダーだった。
出会ったときには想像もしなかった真実を知って固まるに向けて、お転婆少女改めお転婆人魚はビシリと指を突き付ける。
「さあっ、仕切直しよ!バトルスタート!!」
戦いの始まりを告げる声に併せてライトが一斉につく。
沸き上がるプレッシャーと緊迫感に武者震いするめがけて、再び高い波が襲い掛かった。
探し物の物語 11話
争いを嫌うがカントーのジムリーダー達に挑戦すると心に決めたのは、つい先日のこと。
そこには自分の成長を知りたいという強い願いが込められており、カスミがジムリーダーだと知ってしまったからには、たとえ仲間だと思っていても戦わないわけにはいかない。
少しの引け目は感じつつも、はイーブイをボールに戻してラプラスに指示を与えた。
「ラプラス、こっちも波乗りで応戦!」
を背に乗せたラプラスは荒々しい波にも果敢に立ち向かい、ギャラドスに近づいて行く。
普通ならいくら同じ属性だといっても、少しくらいはダメージを喰らうものだ。
けれどもラプラスには、ちっともそんなそぶりが見られない。
寧ろ楽しそうに波に乗っている。
カスミは水ポケモンマスターを自負してるだけあって、直ぐさまラプラスがダメージをくらっていない理由に気付き、舌打ちした。
「特性が¨ちょすい¨なのね…!」
「ご明答!!」
特性が¨ちょすい¨だと、水タイプの攻撃は一切効かなくなるだけでなく、体力まで回復させてしまう。
このまま波乗りで応戦し続ければ、先に体力が尽きるのはギャラドスだ。
しかし、ギャラドスはなにも水技しか使えないわけではない。
「ギャラちゃん、¨かみつく¨!!」
水技で攻める作戦から転向したカスミは、直ぐさま指示を与える。
ギャラドスの大きな口と牙が、接近してくるラプラスの目と鼻の先でガチンと閉じた。
攻撃自体は外れてしまったが、ラプラスはその勢いに怯んでしまう。
大きな隙は、ギャラドスにとって格好のチャンス。
「ギャラちゃん、¨破壊光線¨!」
大きく開いた口に、光が集束し始める。
破壊光線は威力が高く、一撃くらっただけでも瀕死になりかねない危険な技だ。
勝つためには、なんとしても避けなければ。
「っ!ラプラス―――」
にせかされ、ラプラスの周囲に氷の粒が集約しはじめる。
けれどもカスミはその様子をギャラドスの頭上でのんびり眺めていた。
ラプラスは全体的な能力値が、他のポケモンより高いとされている。
それにともない賢くもあるので、非常に優秀なポケモンであると言えるだろう。
しかし、唯一の欠点がある。
それは“すばやさ”の低さ。
たとえラプラスがどのような技を繰り出そうが、ギャラドスの破壊光線が先にラプラスたちを蹴散らすのだ。
「残念だったわね、。水ポケモン同士の戦いでこの私に勝つなんて、無理」
「カスミ。」
堂々と胸を張るカスミ。
その言葉を、の静かな声がさえぎった。
いい気分で言葉を紡いでいたカスミは、一瞬ムッとするも
「…え、ギャラちゃん…?」
ギャラドスが破壊光線をうつために口を開いたままで固まっていることに気がついた。
見れば、ギャラドスの大きく開かれた口の中いっぱいに<何か>がある。
それが破壊光線の発射を邪魔しており、ギャラドスは口を開いたまま困惑している。
ギャラドスの口をふさぐそれは、大量の氷のつぶて。
「ラプラスのすばやさが遅いからと、油断したわね。」
の静かな声に、カスミははっと顔を上げた。
「そんな、まさかっ。“氷のつぶて”だなんて!」
氷のつぶて。
それは、氷タイプのポケモンが繰り出す技。
決して威力は高くないが、必ず先制攻撃が出来るという特徴がある。
行動が遅いラプラスでも、ギャラドスの先手を取ることができるのだ。
カスミは予想外の展開に驚愕し、眼下の少女を視界に捕らえる。
眼前のギャラドスの大きな口に物怖じすることなく、ラプラスの背にしっかりと立つ少女、。
カスミがに抱く印象は、“儚げでおとなしそうなお嬢様”だったのだが…
(この子、怖い…。)
なぜか、得体の知れぬ恐怖がカスミを包み始めていた。
ふと―――二人の視線が絡み合い、思わず引きつるカスミと相反して、は笑みを浮かべる。
レッドがその場に居たならば、赤面の一つや二つはしたことだろう。
けれども、意に反してカスミの背筋を冷たい汗が伝い落ちた。
「ラプラス、“怪しい光”。」
を背に乗せたラプラスの眼が、赤黒く光り始める。
「ギャラちゃん、見ちゃだめ!!!」
カスミの制止は寸でのところで間に合わず。
ラプラスの“怪しい光”で混乱したギャラドスは、自身を包むほどの大きな津波を起こした。
カスミの体は、混乱に激しく体をうねらせるギャラドスの頭上からプールの中に投げ出される。
「あっ」
ハナダジムは水ポケモンをメインとするジム。
よって、ジムリーダー自身泳ぎを得意としている。
しかし、己のギャラドスが起こした津波は、あまりにも強大すぎて…
カスミの体は、荒れ狂う水のうねりに飲み込まれた。
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実に2年近く放置してました…。
2009/11/06