幸せの掴み方
朝が来て、めんどくさいけど取り合えずベッドから抜け出して着替えて朝ごはんを食べて家を出て。
向かう先は高校生としては当たり前の学校。
何でこんな暑い中いちいち歩いて離れた距離の建物まで行かなきゃならないんだろうとか、本当は家から出るのも億劫だとか。
心の中でボヤキながらも、丸太は毎日学校に行く。
学校に着いてからは、めんどくさいけど取り合えず勉強してサボって昼ごはん食べてまたサボって勉強して…。
まるで「めんどくさい」が固まりになって出来たような人間だけど、それでも丸太は学校にだけは行く。
だって、めんどくさくてもそれを負かしてしまうほど気になるものがあるから。
「鷺井君。」
HPが終わって直ぐ。
鞄にろくに教科書もつめないで帰ろうとする丸太にかかる、少女の声。
振り返れば、がノートを数冊胸に抱えて丸太を見つめていた。
ほら来た、一日の中でもっとも幸せな時間が。
「今日も授業中寝てたでしょ?ノート貸してあげる。」
は授業をさぼりがちな丸太のために、毎日ノートを貸してくれる<いい人>だ。
とりわけ仲が良い訳でもないのだが、こうやってこまめに世話を焼いてくれると言うことはもともとお節介な性質なのかもしれない。
丸太はこののお節介な性格が大好きだった。
もちろん、好きなのは性格だけではないが。
「ありがとう。」
ノートを受け取ってお礼を言うと、「どういたしまして」と返って来る優しい声と笑顔。
多分、きっと。
丸太が毎日の中で一番楽しいと思う瞬間がこのとき。
このときのためだけに、毎日めんどくさいながらも学校に来る。
なんて馬鹿なのだろう。
けれど、馬鹿でも構わない。
だって、これが馬鹿なりの幸せの掴み方なのだから。
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現代っ子マルタがちょっぴり必死になって学校に幸せを掴みにきていたらいいな。
2006