風邪薬
「ほら言ったとおり。」
38.5℃。
電子体温計に表示された体温を見て、秋は呆れたように呟いた。
ベッドに横たわり、額に氷水で冷やしたタオルを乗せたは、その言葉に反論出来ず沈黙したままだ。
昨日晩お風呂から上がった後、ろくに髪も乾かさずに窓を開けて1時間ほど星を見ていたのだ。
いくら春だと言っても、まだ初春。
当然夜は寒いわけで、限りなく窓から身を乗り出し、秋の忠告を無視しながら外の冷たい空気に当たっていたのが原因だろう。
「今日は久々に外で遊ぶ予定だったのに、言いだしっぺのがコレじゃあね…。」
「あぅ、ごめんなさい…。」
しゅん、と項垂れながら布団の中にもぐりこんだ弾みで、額の上に乗せていたタオルが落ちる。
秋はタオルを拾って、布団を軽く剥ぎ取った。
隠れていたが再び現れ、その額に新しいタオルを乗せる。
当初は座木がの面倒を見ると言っていたのだが、秋自ら看病をすると言って座木を退けた。
今はリベザルも連れて買い物に行かせている。
「、薬あげようか。」
「…欲しい。」
「じゃあ口開けて。」
「もう出来てるの?」
「そういう類の薬はいつも常備してるんだよ。」
いつだろうと、どこだろうと、彼女の体調は常に万全でなければ心配で気が気じゃない秋は、必ず専用の体調管理系の薬を肌身離さず持っている。
まさか自分のために調合された薬だとは思ってもいないは、秋の気遣いなど気付かないまま毎回薬を飲んでいるのだ。
秋は秋で、そのことがばれるとなんだか恥ずかしいから、あえて何も言わずに薬を渡している。
ポケットから取り出した小瓶にはラムネのような錠剤がたくさん詰まっていて、それを2粒取り出した秋は、ポイとの口に入れた。
口の中に転がり込んできた小さな2粒は、舌の上で苦い風味をかもし出す。
思わず
「うぇ」
顔をしかめて吐き出しそうになったの口を、秋は無理矢理手で押さえつけた。
「せっかくあげたんだから出すなって。」
「んんん〜!!!」
「ちなみにそれは噛んで食べる薬だから水無しでどうぞ。」
このやけに苦い錠剤を、噛んで食べろと!?
苦いものが苦手なにとって、それは死刑宣告に等しいものだった。
涙目になりながらなかなか噛み砕けないを、秋は半眼で睨みつける。
「ふぅん、僕の薬はのまないんだ?」
「んっん、んんん〜!!(だって、苦い〜!)」
「仕方ないな。」
秋は今度は液体が入った小瓶を取りだした。
茶褐色の瓶には、なんだか物騒な髑髏マークが描かれている。
「これ、飲ますよ?」
「―――――――!!!!」
瓶の中でたぷたぷ波打つ液体。
あからさまに危険な香りがぷんぷんする物を飲むくらいなら、まだ苦いほうがましだ。
は意を決して口の中で半分溶けかかっていた錠剤をガリ、とかみ締めた。
強烈な苦味が口の中に広がって、ベッドの上でのた打ち回る。
よほど苦いのが嫌だったのだろう。ついには意識を失って、途端に静かになる。
秋はそんなを見て、心の中でざまぁみろと呟いた。
本当は甘い薬もあったのだ。
けれど、これは昨日言うことを聞かなかったへのささやかな罰。
「You should hear advice of a person properly.」
いつもは甘いけれど、たまには苦いお灸を据えてやるのもいいだろう。
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2007/3/3
「人の忠告はちゃんと聞くべきだよ。」
私は聞かないけど(ぇ