再会は雨

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雲から滴り落ちる雨は空が泣いている涙なのだと、何かの本で読んだことがある。
それももうずっと昔のこと。
今にも記憶の片隅から消えてしてしまいそうなくらい古い昔のこと。







「ああ、そういえばあの日も雨が降っていたっけ。」



窓を伝う雨の筋をぼんやりと眺めながら、秋は誰に問うでもなく呟いた。
その本を読んだとき雨が降っていた気がする。
一人の少女と肩を寄せ合い、大きな木の下で雨宿りをしながら読んだ気がする。
あの時はとんだ子供だましのお話だと思ったけど、いまでもそう思っているけど。
隣に彼女がいたからそんなくだらない話も読む気になれたのだ。



「元気にしてるかな。」



根無し草のようにふらふらと旅をする少女が自分のもとから去っていって、かれこれ30年近くになる。
忘れかけた頃に、ふと思い出させるかのように出現する彼女は今頃何処を旅しているのだろうか。
向こうから手紙を送ってくることも滅多に無いから、現在の状況もさっぱり分からない。
今まで気にしていなかったけど、気にしだすと気になって仕方が無い。
過去の経験からいって、おそらくこういうときは大抵何かが起こる前触れだ。
そう、気にしていた人物が訪ねてきたり―――――――



「すみませ〜ん。誰かいらっしゃいませんか〜?」



店の玄関から、しとしとと降り注ぐ雨の音にまぎれて少女の声がした。
つい今しがたまで安否を気遣っていた人物の声だ。
ロフトから軽々と飛び降りて店のカウンターまで突っ走る。
カウンターと玄関を仕切る本棚が、このときばかりは邪魔に思えた。



!」
「久しぶり、火冬。」



30年ぶりに出あった少女は30年前とまったく変わらない姿で昔の名前を呼んだ。
傘を差さずに来たのだろう。
頭の先からつま先までぐっしょりと濡れている。



「そんなに濡れて、風邪でもひくつもり?」
「もうひいちゃってる。」



そう言った後、少女は盛大に大きなくしゃみを三回した。
なるほど、確かに風邪のひき始めだ。



「しょうがないな、ほら、薬あげるから取り合えず中に入りなよ。」



冷たい少女の手を引いて部屋の奥へと足を進める。
30年ぶりの再会に、なんだか胸の奥がくすぐったくなった。






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我が家の秋君はヒロインだけには優しいです。
彼の頭はいつだって彼女中心。

2005/9/1


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